ふるえて眠れ
5
動かない身体になんとか治癒を施し、
洞窟を這い出たのはもう夜明け前。
東の空が赤く染まっている。
重いままの身体を無理矢理動かし街道に出る。
鉛の様に重いから、もうここで眠り込んでしまいたい。
そのまま目覚めなくてもいい気がした。
と、ありがちな悲鳴が耳にはいる。
そう遠くない場所から聞こえた助けを求める声に、
こんな時ほってはおけない奴が脳裏をよぎって。
馬鹿げた考えを頭から追い出す。
なんとなく、本当になんとなく、
彼はそこに向かった。
予想どうりの光景。
盗賊にかこ囲まれている商隊。
本当になんとなくだったのだ。
以前の仲間のように、
こいつらを救えば。
自分もまだ人間でいられる気がした。
しかし
商隊も、盗賊団さえも、
彼の姿を目にした瞬間逃げ出した。
化け物と叫びながら。
「は・・・はは・・・」
笑える。
自分はもう・・・・
人間ではない。
膝をついてしまう。
鉛の様に重いから、もうここで眠り込んでしまいたい。
そのまま目覚めなくてもいい気がした。
ただ笑いが止まらない。
誰か、この笑いを止めてくれ・・・・
このままじゃ眠れない・・・・。
「こんな朝早くから強盗とは不届き千万!
しかし!
たとえ今この時太陽がなくとも!
明けない夜がないように!
闇を照らす光が指さない朝はないのです!
観念して正義の鉄ついを・・・・・ってなんで誰もいないんですか〜〜〜!?」
・・・・・止まった。
「ゼ・・ゼルガディスさん!?」
名を呼ぶ声が思い出せなかった。
別れたのはほんの数日前なのに。
でも、今確かに聞こえるこの声は。
「・・・泣いてるんですか?」
真上にあった声はいつの間にか自分の横に。
馬鹿を言うな。俺はずっと、笑っていたんだ。
泣いてなど
小さな手が俺の顔にこびり着いた血を拭う。
顔をあげると、目の前にはいるはずの無い少女が。
「・・・アメリア?」
名を呼ぶ声を発する事ができなかった。
ほんの数日前まで普通にしていたはずなのに。
少女の背中から、朝日が上る。
ああ・・・ここは暖かい。
とても、暖かい。
俺はアメリアを抱きしめる。
この暖かさを、光を、風を、確かに抱きしめた気がして、
俺は意識を手放した。