餞別
ここはゾアナ王国のはずれ。国境近くの宿場町である。
酒場の円卓を5人で囲み、
あたしはガウリイといつものように食事の争奪戦を展開していた。
そう、いつものように。
冥王が倒れ戻ってきた日常。
ここ何日かは
あたしにしてはまったく穏やかな旅である。
そこ!つっこまないように!
確かにそこらの盗賊団のアジトが軒並み塵と化したりしたのは事実だが。
それは乙女のロマンとゆーやつである!
う〜ん、なんて穏やかな日常!
あらかた食事をかたづけた頃
「新しい情報がはいってな・・・」
唐突にゼルが口を開いた。
自然あたし達の目はゼルに集まる。
「ここであんたらとはお別れだ。」
「な、なんでですか!」
アメリアが立ち上がって問う。
「あんたらはセイルーンに向かうんだろう?
その情報ってのは、逆方向だからな。」
コーヒーを片手にあっさりと言い放つ。
「そっか。」
・・・まあゼルがこう言い出すのは予想していた。
一度は見つけたクレアバイブルへの道は閉ざされ、
また当ての無い旅に戻る。
手がかりは今のあたし達には無い。
それに正直今回はあたし絡みでずいぶん寄り道をさせてしまったし。
彼が行くと言うならあたしは止められない。
ただ・・・
視線を立ったまま固まっているアメリアに移す。
「ま、縁があったらまた会う事もあるだろうさ。」
言ってゼルは席を立ち部屋に続く階段に向かう。
「・・しかた・・ないですよね・・・。」
俯いて呟くアメリアを残して。
その日は、月の見えない夜だった。
幾重にも重なった雲が空を覆い、
静寂に包まれたはずの森の中で
「ファイヤーボール!!」
あたしの一撃を受け自称ゾアナ最強の盗賊団の首領は宙を舞った。
あの後、珍しく立ち直りの遅いアメリアを寝かし付け、
やつあた・・・もといゼンリョウナシミンノアンゼンノタメ。
あたしは盗賊狩りにいそしんでいた。
しかしなかなか気分は晴れない。
あの日、冥王との戦いの後。
肩を寄せあって眠っていた2人を思い出す。
ゼルのあんな穏やかな寝顔は初めて見たし、
アメリアの気持ちにも・・・
あたしは何となく気づいている。
「あ〜あ・・なんかすっきりしない・・・」
最後の金塊を回収し、あたしは帰路につく。
しかたない。
ゼルには目的があって、
アメリアは帰りを待つ人がいる。
あのかたい男がそれを無視するとは思えない。
・・・はあ・・・
知らず溜め息がこぼれる。
・・・確か・・・山を越えたところにもいっこ盗賊団が・・
などと考えはじめた頃。
白い法衣姿が目の前に現われた。
「ゼル・・・あんた何してんのよ。」
知らず声が低くなる。
「急ぎの情報でな。」
・・・この男は・・・
「それで挨拶も無く行くつもり・・・?
アメリアはどうすんのよ。」
必死で涙をこらえていたアメリアが浮かぶ。
「・・・。何故そこでアメリアが出てくる?」
さっと頭に血が上り胸ぐらを掴む。
「あんたとぼけんのもいいかげんにしなさいよ!
アメリアがどんな・・・。」
その先の言葉はつげなかった。
ゼルの顔がさっきまでのアメリアとだぶって見えたのだ。
「どうした・・?吹っ飛ばされる覚悟でいたんだが。」
掴み掛かった腕を離しゼルに背を向ける。
何となく、わかってしまったのだ。
ゼルの気持ちが。
傍らで常に微笑んでくれる存在がどれだけ助けになるか。
あたしも今回思い知った。
「あんた勝手よね。やっぱり。」
「いまさらだな。どうにもならん。」
・・どうにもならん・・・か・・
「そりは性格?それともアメリア〜?」
背を向けたまま意地悪く問うてやる。
「くだらんな。」
あたしは振り返って、
肩を竦めるゼルに短剣を投げる。
盗賊から奪い・・コホン・・・回収?したものだ。
銀の柄に包まれたなかなかの業物。
「餞別よ。今回の戦利品。」
目を見開いた彼は・・・
「呪いとかかかって無いだろうな・・?」
真顔で言いやがった。
「やっぱり吹っ飛ばそうか?」
「ありがたくいただいとくよ。」
短剣を懐にしまう。
「売ったりするんじゃないわよ。」
「ああ。」
苦笑と共に答える。
「あんたらとの・・・旅は、悪くなかった。」
「言う相手間違ってるんじゃない・・?」
どこまでも素直じゃない奴。
でも、ま、悪くない、ってやつかな。
「アメリアに伝えとくわ、アメリアに。」
「頼む。」
珍しく素直に言った彼は。
そのまま踵を返した。
「ほんと、言う相手間違ってるわよ・・・。」
彼を見送って、あたしも帰路につく。
闇の中に消えていった彼の辿る道に、
光が指す日はきっとくる。
ま、どうしようもないとか仕方ないなんて。
あたしには似合わないしね。