餞別
-2-
まどろみの中で私の思考はぐるぐるまわる。
いつかくる事はわかっていたんです。
もうそろそろだって事も。
でもちょっといきなり過ぎじゃないですか・・・
一緒に笑ってくれるようになって、
すこしだけれど距離が近くなったような気がして。
けれどまたあの人は1人で行ってしまう。
ゼルガディスさんには体を戻すって目的があって
私にはセイルーンで待っている人たちがいて。
いつまでも今のまま旅を続けることはできない。
それはわかっていたくせに。
いかないで下さいとも
連れていって下さいとも
何も言えなかった私には、何かを言う資格もない。
でも本当はそう言いたい。
みっともなくても、迷惑でも。
そばにいたい。
けれどゼルガディスさんはきっと困った顔をして。
あの笑顔を見せてくれる事はないのだろう。
身勝手な私は、ゼルガディスさんの事さえ後回しにするんでしょうか?
「いやだな・・・こんな私。」
まどろみの中私は呟く。
さっきまで頭を撫でてくれていたリナさんはいなくなっていた。
「明日は笑顔でお別れしなきゃ・・・」
私は眠りに落ちていく。
そして朝を迎えて、今私はゼルガディスさんの部屋の前。
また会えると彼は言った。
縁があるのを信じて。
今は笑顔で見送ろう。
いつものようにドアを開け、
いつものように挨拶をして、
笑顔で見送らなくちゃ・・・
深呼吸をしてドアを開ける。
「おはよ〜ございます!ゼルガディスさんっ!!」
目に映るのは空っぽの部屋。
・・・いない・・・?
まさか。
嫌な予感に捕われて階下の食堂に駆け降りる。
そこにも誰もいない・・・。
・・・行っちゃったんですね・・・
ゼルガディスさんは旅立つ時に
必要な物以外は持たない人。
机の隅にはきっともう読み終わったのだろう、
魔道書が几帳面に積まれていた。
いらない物は置いていく。
置いていかれた私は、
いらないもの。
私は座り込んで膝を抱える。
抱えた膝にぽたぽたと雫が落ちた。
もう一度笑顔が見たかった。
名前を呼んで、名前を呼ばれて。
挨拶をして、挨拶を返されて。
彼に纏わりついて言葉を投げて、
鬱陶しそうな顔をしながらかまってくれて。
昨日まで、
当たり前のようにしていた事なのに。
もういない。
涙は止まらなかった。
「アメリア・・・」
いつの間に近付いていたのか真上からリナさんの声がしたけれど、
私は顔を上げる事ができずにいた。
「置いてかれちゃいました・・・」
絞り出したのはただの愚痴。
情けなくってまた涙が出る。
「あんたには帰る場所と、待っている人がいるわ。」
「わかってます・・。でも!別れの挨拶くらいさせてくれたっていいじゃないですか!
笑顔で見送って・・・旅の無事をお祈りして・・・」
リナさんは優しく抱きしめてくれた。
「だからちゃんと戻ってくんのよ。」
「へぇ?」
「実はね・・・」
-3-
「じゃ〜いってきます!」
旅支度を終えたアメリアは全開の笑顔で拳を握る。
「効果は一週間。ちゃんと見つけんのよ!」
「はい!」
「よろしい!」
昨夜、ゼルに背中を向けている間、
あたしはこっそりあの短剣に探査魔法の目印になるよう細工をしておいたのだ。
呪いじゃないわよ!
これはあたしからの餞別。
時間がないなら作ってしまえばいいだけだ。
少しくらいの寄り道ならセイルーンも許すだろう。
ま、どうしようもないとか仕方ないなんて。
あたしたちには、似合わないしね。
「一ヶ月以内には帰んのよ。フィルさんには上手く伝えとくから。」
「はい!必ず!ではみなさんもお元気で!」
言って走り去っていく背中を見ながら思う。
ゼルはきっと少しだけ怒るだろう。
けどあんな顔見せるくらいなら、荒療治ってのもたまにはいい。
それに、2人旅ってのも案外、悪くないもんよ?
振り返って金髪にウインクをおくる。
「さっ!あたし達も出発しますか!」
去っていった大事な仲間。
けれどこれで終わりなわけじゃない。
きっとまた会う日も来るだろう。
その時に2人の顔に笑顔がある事を願って、
あたし達はあたし達の旅を。