目が覚めて、最初に訪れた感覚は鈍い頭痛だった・・・。
「ウウ、二日酔い・・」
両の手で頭を抱える。
あの後、リナ達の食事につき合ったおかげだ。
いやあれはむしろ食事というよりも・・・
なんというか・・・
・・・思い出すのも恐ろしい。
思考を強制的に中断し、ぐるりと部屋を見渡すと、
酒瓶を抱え、だらしなくソファに横たわるガウリィとリナ。
なんとも緊張感にかける光景に苦笑を漏らす。
そっとベッドから降り、軽く伸びをする。
四肢に力が戻っている事を確かめ、胸をなで下ろした。
ゼルガディスの言っていた様に、肩の痛みも今はない。
「そういえば・・・」
彼の姿がない事を認め、そっと部屋を出る。
彼には、伝えそびれている事がある。
2人を起こさぬよう、静かに扉を開けリビングに出ると
けだるそうにソファに座る後ろ姿。
目の前のテーブルの上には
ミネラルウォーターの瓶が数本転がっている。
「おはようございます」
そっと横にまわって呼び掛けると
「・・・ああ」
これでもかと言うほどしかめられた顔で答えが返された。
「・・・・二日酔いですか?」
「あいつらにつき合うと・・いつもこうだ・・・」
昨晩は彼も相当飲んでいた。
漏らされる声はひどく掠れている。
「たしかに・・」
昨日の惨状が蘇る。
自分も人より食事の量が多い自覚はあるが、
それでもあの2人に比べればかわいいものだ。
「飲むか?」
「あ、ありがとうございます」
差し出されたミネラルウオーターを受け取り、
ゆっくりと喉に流し込む。
よく冷えた水が喉を流れる感触が心地よい。
「生き返りますね〜」
言いながらゼルガディスの横に腰をおろす。
腰をおろしたその向いにあるキッチンには、
昨日の惨劇の残骸。
大量の食器が文字どおり山積みになっていた。
「・・・昨日はお疲れ様でした」
ほとんどの料理を作っていた彼に、ねぎらいの言葉をかける。
「・・・あんたがあんなに食うと知ってりゃ助けなかった」
「・・す、すいませんでした・・・・」
返された言葉に顔が引きつる。
確かに酔った勢いに任せて、
かなり食べてしまった自覚はある・・・。
「ゼルガディスさん、いいお嫁さんになれますね」
「・・・言っておくが、全然嬉しくない」
多少の仕返しの意味を込めた言葉に
返された答えに少し笑う。
「悪いが、もう少し寝たい。
どうせ動くのは夜だ。あんたも今のうちに寝ておけ」
言いながら帽子を顔の上にのせ目を閉じた。
そうしますと答えて、
やはり目を引くその銀糸にそっと手をのばす。
見た目を裏切るその固さに、驚いて手をひいた。
面倒そうに開けられたその瞳が
「その身体・・・」
言いかけた言葉で一気に伶俐なものに変わった。
背筋に冷たいものが走るが、
なんとか動揺を飲み下して言葉を繋げる。
「・・・怖がらせるって、言いましたよね?昨日」
昨日あれだけ世話になっておいて、
彼にそう思われたままでいるのが嫌だった。
少なくとも自分は、
「そんな事ないですって、言っておこうと思って」
白昼の光の中で見るその身体は、
確かに普通の人間と同じではないが、
それを怖いとは感じない。
「そうか・・・。」
相変わらず棘を持つその視線から
視線をそらす。
「わ、私は綺麗でいいと思いますけど
あ、の、髪とか、目とか・・・綺麗ですよ?すごく」
正視できないのは、
棘があるからではなく、
まして怖いわけでもなく。
「・・・言っておくが、ぜんぜん嬉しくない」
少しの間リビングを支配した沈黙を破ったのは、ぶ然とした声。
再びあわせた視線から棘は消えていた。
その事に満足し、すっと席を立つ。
「いいお嫁さんになれますよ?」
軽口を残し足は扉へ。
「私も、もうちょっと寝ておきます」
扉を閉める直前、
おやすみなさいと呼び掛けた声に、
返される手に微笑んで、ゆっくりと閉じた。