リナとガウリィ。
ゼルガディスの仲間だという二人は、
彼同様、強烈な個性を持っていた。

腰まで伸びた栗色の髪が印象的なリナ。
真っ赤な男物のジャケットを着こなす彼女が、
どうやらこの三人のリーダーのようだ
歳の頃は自分と同じくらいか、
気さくな調子で話しかけてくる彼女と接していると、
まるで古くからの友人であるかの様な錯覚を覚える。

その彼女に寄り添うように立つのがガウリィ。
金髪で長身、おまけにかなりの美形。
しかし身に纏うのが東洋風の着物に刀。
なんとも風変わりないでたちだが、
やけに馴染んでいるのが不思議でならない。

あまりに三人の印象がかけ離れていて、
どういった関係なのかと問うたが
帰ってきたのは腐れ縁だと言う一言のみ。

そして今、ゼルガディスから説明をうけたリナは、
腹をかかえて笑い転げている。

-2-


 「あ、あんたそれは無茶だわ〜」
げほげほとむせながら言葉を絞り出す。

「そ、そんなに笑わなくても・・・」
「くくっ・・ごめんごめん」
答えるリナは未だ笑いを殺せていない。
「無茶だったとしても!やらなきゃいけない時だってあるんです・・・」
その無茶が今回ははっきりと裏目に出てしまったのだ。
言い切る声にも力が入らない。
しかしリナはいたくお気に召したようだ。
「うんっ!そ〜よね。あんたなかなかわかってんじゃない」
満面の笑顔でアメリアの背中を叩く。
「おいリナ〜。相手は怪我人だぞ」
ガウリイに諭されてもリナは相好を崩したままだ。
「あ、でももう平気です。リカバリイかけてもらいましたから!」
言いながら傍らのゼルガディスを見遣ると、苦虫を噛み潰したような顔。

「へえ〜〜。ゼルったらやさしいのね〜・・・」
言うリナの顔は一変していた・・・。
「わざわざ助けて〜?連れてかえってきて〜?」

怒りや不満ではなく、明らかにからかいを含んだ口調
「そのうえ・・わざわざ嫌いな魔法までつかっちゃって〜」
「ずるいよな〜。俺が怪我してもかけてくれないのに・・・」
気楽な口調でガウリィが相づちを打つ。
一人は確信犯。もう一人は無意識にゼルガディスを追い詰める。
「しょうがないのよガウリィ。ゼルはかわい〜い女の子にしか使ってくれないのよ。」
「なんだ?ゼル・・・惚れちまったのか?」

身震いしながら聞いていたゼルガディスがゆらりと立ち上がった。
手にはすでに撃鉄の起こされたコンバットマグナム。
ゆっくりと照準をあわせた彼は、無言で引き金を引いた。



まあ、彼等にとってはお決まりの一騒動があった後、
若干風通しのよくなった部屋で一同は再び腰を落ち着けた。
「ええと、それでアメリア?」
服のホコリをはたきながらリナが問いかけるが。
「アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン。彼女のフルネームだ。」
ゼルガディスの言葉に遮られる。
「セイルーン・・・?」
訝しげにリナの眉が寄せられる。

「お父上は刑事さんだそうだ。」
溜め息まじりのゼルガディスの言葉を聞いたリナが目を見開く。
「あの・・・さ、アメリア?お父さんの名前って?」
問うてくるリナのただならぬ雰囲気を察し、
いささか緊張しつつアメリアが口を開く。
「フィリオネル・・・」
「と、ととと、とっつぁんの娘〜〜!? 」
言い終わる前に、リナの絶叫に遮られた。
「う、嘘でしょ・・全然似てないじゃない・・・。」
立ち上がったリナの横ではガウリィが手にしていた刀を取り落としている。

「あの、父の事、知ってるんですか?」
そのリアクションに聞くのもためらわれたが、恐る恐る尋ねてみる。
「知ってるもなにも・・・。」
リナが首を振りながら言葉を続ける。
「ここ数年、お仕事の時は欠かさず顔見てるわ。」
「ええ!?じゃあリナさん達警察の・・・?」
「それとはちょっとちがうけどね。ま、いずれわかるわ。」
苦笑するリナの顔はこれ以上詮索するなと示していた。

ゼルガディス同様、素性を知る機会は与えてくれそうにない。
ふうと溜め息を漏らし三人を見渡す。
とても正義の使者なぞには見えないが、
かといって悪人にも見えないこの三人。
「人を見る目には、自信あったんですけどね・・・」
この国に入ってから自信を失うような事ばかりだ。

「ま、いいじゃないの。
 薬で儲けてる奴を潰すのに職業なんて関係ないって事で!」
いたずらっぽい笑顔で投げられる言葉。
その裏に、少なくとも悪意は見受けられない。
「そうですね!正義がなされればそれでよしです!」
知らず笑みを零したアメリアを見て・・。

「前言撤回・・・ね。やっぱ・・・そっくしかも・・・。」
リナはそっと呟いた・・。



「で、そっちはどうだったんだ?」
ゼルガディスの問いにガウリイが袂から紙束を取り出しテーブルに放る。
「上々」
答えながら紙片を卓上に広げる。

「しかし、逃げならシャルルを使うと思ってたんだけど。
まさか宰相と繋がってるとはね・・・」
広げられていく紙片には文字らしきものが書いてあるが、
それはどこの国の言葉にも属さない。

「と、言うことは。裏がとれたんだな。」
その一枚を眺めながら問うゼルガディスにリナが肩をすくめ答える。
「そゆこと。相変わらず腕はいいから。あの変態」
ゼルガディスが露骨に眉を潜める。
「あいつが噛んでるのか・・・」
「はいはい。そんな顔しない。
 あいつの腕はあんたも認めてるんでしょ?」
とんとん、と紙片を指しリナが苦笑する。

「・・・けど思った以上に真っ黒だわ。
 宰相さん。」

宰相グレゴ。
五年前の政変の旗手となった男であり、
公爵の甥にあたるこの男に黒い噂は絶えない。
この国の腐敗は彼が宰相の座について一気に加速した。

そして紙片に書いてある情報はどれも、その宰相と麻薬組織の関連を示すもの。
しかしその全てに『証明は難しい』と、ただし書きがそえてある。
「おまけにずいぶんやり手ね。
 九尾のとかげってとこかしら」
宰相本人に累が及ばぬよう施された細工は一筋縄ではとけないだろう。
「見事なもんだな。ここまですれば簡単には挙げられん」
うんざりといった調子でゼルガディスが紙片を握りつぶす。

「ま、俺達にとっちゃ簡単な事だろ?」
気楽な調子でガウリィが口をはさむ。
「そゆことね」
リナは微笑みを返しつつ、テーブルに一枚の図面を広げる。

「今頃必死で残った財産掻き集めてる頃でしょ。」
「警備は。」
「大したことないな。屋敷の中の気配はせいぜい200にとどかないくらいだ。」
「もうあんまり時間もないしね。ちゃっちゃと潰しちゃいましょ。」
ガウリィの言葉を受けてリナが続ける。
「じゃ、予定通り・・・」
「ええ、明日乗り込むわ」
「御一緒します」

横合いから上がった声に、
ゼルガディスが深い溜め息をつく。
「ほっておくと、1人で乗り込みかねないからな・・」
肩を竦めリナに視線を向ける。

「それなりには、使えるんでしょうね?」
リナの挑戦的な瞳にアメリアは毅然と胸をはる。
「足手纏いにはなりません」
言い切る表情からは強い決意が滲む。

「・・・連れてくって約束だったんでしょ?」
リナがやれやれと言った調子で頬杖をついた。
「よろしくお願いします!」
言葉と共に敬礼をしたアメリアにガウリィが苦笑を漏らした。


「無茶をする子は嫌いじゃないけど・・・」
問うてくるリナの瞳に剣呑な光がともる。
「あんた私たちと、いっていいのね?」
「言いましたよね?正義がなされればそれでよしです。」

その言葉には、色々な意味が含まれているのだろう。
しかし、もとよりリスクは承知の上。
彼等の素性が知れないのは確かだ。
が、その力はそれ以上に確かなものだ。
わずかな時間で宰相の事を調べあげる能力もさることながら
わずかな所作から滲むその力量も感じとっている。
残された時間のない中で、アメリアはそれに賭ける事を選択した。

「オッケー!決行は明日。よろしくね、アメリア」
笑顔で差し出された右手を握り返す。
「じゃ、とりあえず御飯にしましょうか!!」
微笑むリナの言葉と共に、ずいぶんと遅い晩餐の用意が始められた。



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