私幸せだったんです。
ちょっぴり残念でしたけど。
暖かい腕の中で。
薄れていく意識の中で。
私を見つめるあなたがいて。
私幸せだったんです。
旅の途中何度も見たその表情。
あなたの顔はひどく辛そうで。
でも私が見たいのは。
暖かいあなたの笑顔。
だから私は下手な嘘をついて。
大丈夫ですと繰り返した。
今考えたら当然なんですけど。
あなたが微笑む事は無く。
ちょっぴり残念でした。
コイダトカアイダトカイウノカモシレナイ
仲睦まじく並んで眠るリナさんとガウリイさん。
微笑ましい二人に毛布をかける。
ついさっきまでの戦いがまるで夢であったかのように
とっても平和な昼下がり。
崩れた壁の先端に佇むゼルガディスさんに手を振る。
そして彼が笑う。
とても幸せな光景。
暖かい陽光に包まれて、ぽかぽかと。
でも目の前を綺麗な黒髪が掠め、
シルフィールさんがゼルガディスさんの傍に腰を降ろしてから。
なんだかお日さまが陰ってしまったような気がしているんです。
シルフィールさんは綺麗な人。
美しい長い髪も、知的な言葉も、優しい微笑みも。
どれも自分には無くて憧れる大人の女性。
それで、ちょっとだけあの人に似てるんです。
あの人は男だったけど。
シルフィールさんは大人の女性。
2つ並んだ後ろ姿はとてもお似合いで。
あの人はあんな女性が好きなのだろうと。
守りたくなるような美しい人。
そういえば初めて会った時もあの人が隣にいた・・・。
「私、何考えてるんでしょう・・・。」
ぶんぶんと頭を振って暗い思考を追い出す。
冥王は倒れ皆無事に帰ってきた。
これぞ正義の力ってやつです!
リナさんとガウリイさんもなんだかいい雰囲気だったし。
お日さまもあったかいし・・・。
そう、今は幸せな昼下がり。
幸せなはずなんです。
けれど、ゼルガディスさんがシルフィールさんに向けた笑顔を見て。
どうしようも無く胸が軋んだ。
暖かさをくれるはずの笑顔が何故だか遠く感じられて。
最後の瞬間に見たいと願った笑顔が、何故だか今は見たくも無い。
「私・・けっこう汚い人間なんですね・・・」
好きな人の笑顔すら憎らしく感じてしまう。
魔竜王に言われた言葉が蘇る。
私が悪だと言った。
・・あれ?・・・・
・・・・?・・・・好きな・・人?
自分の思考をたどって出てくる答え。
私は・・・ゼルガディスさんの事が・・
うああ・・・そんな・・・
顔に血が上る。
何故あれほど笑顔が見たいと思ったか。
何故あれほど幸せな気持ちになれたのか。
やっとわかったような気がして。
けれどあの人は別の人を見て微笑んでいる。
それが切なくて。
ゼルガディスさんがとても遠くに感じられて。
2人がこちらを見ているのに気付いても。
どんな顔をすればいいのかわからなかった。
それでも、ゼルガディスさんに手招きされて。
それがとても嬉しくて。
つい走りよってしまう。
「何を怒ってるんだ?」
「別に!怒ってなんかいませんよ!」
ぷいと顔をそらす。
これも私の下手な嘘。
「なんだか知らんが機嫌をなおせ。」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。
子供扱いされている気がして
ぶんと頭を振って手を振り払う。
「怒って無いですってば。」
それでもその手はあったかくって。
ゼルガディスさんの隣はとてもあったかくって。
つい笑顔を見せてしまう。
ゼルガディスさんが笑う。
私も笑う。
身勝手な私の幸せな昼下がり。
月の美しい夜に、目の前の人を守ろうと決めた。
それが汚くても、悪だと言われても。
この人の隣にいる事は、とても正しい事だと感じる。
ゼルガディスさんの肩に頭を預けて目を閉じる。
ここはとってもあったかい。
こういうのを、
恋だとか愛だとか言うのかもしれない。